追悼

 昨日コラムをアップした直後、奥村裕美子さん(旧姓:石川裕美子さん)の訃報を知った。
 昨年よりがんの闘病生活を送っておられる事を知ってはいたけれど、(当然だが)非常にショックを受けている。

 奥村裕美子さんを一般的に紹介するとするなら、福岡が誇る鬼才フォークシンガー、オクムラユウスケ君の奥様であり(つまりBOGEY君の義妹という事になる)、現在if MASAKAのイクマさんと組んでいたi know i know i knowのメンバーである、という事になるのだろうか。
 歌手として、またソングライターとして非凡な個性と才能を持った人だったのだが、その才能や我を前面に押し出して活動をするタイプではなかったように見える。
 そういう事をするよりは、あくまで周りの仲間や家族を尊重し、融合し合うような形で自分の力を発揮しておられた印象が強い。
 私はまだ彼女が「石川さん」だった頃よりいくばくか交流させて頂いていたが、いつも良い意味で「ゆとり」のある人だと感じていた。
 その「ゆとり」というのは例えばノホホンとしているとかそういったものではなく、「自分を過不足なく知っているが故に、周りの動きに左右されたり、他人を羨望したりしない」という類のものだったと思う。
 先ほど述べた音楽活動のやり方も、その「ゆとり」ゆえのものだったのかもしれない。
 そして私をよく知る人はよくご承知と思うが、私自身はこの種の「ゆとり」というものに徹底的に欠けている人間である。
 故に同じようなゆとりのない人間には同属嫌悪みたいなものを感じてしまうし、「ゆとり」があるようにみせかけている(ように見える)人に対しては「嘘吐きめ!」としか思わないのだが(我ながらホント性格悪いなあ。すみません)、奥村さんのような「本当のゆとりがある人」に対しては、ただただ素直に好感を持つのみであった。

 たまにご本人や夫君のブログ・twitterなどに掲載されていた事以外で、奥村さんがどのような闘病生活を送っておられたかというのは、私は知らない。
 ただ、がんとの闘病である。当たり前の話だが、経験した者以外には窺い知れぬほどの苦しみとの闘いだった事は想像に難くない。
 また、まだ幼いお子様がおられる事は、もちろん闘病の上では計り知れない励みとなったであろうが、「わが子を遺して逝く無念」というのはいかほどだったであろうか。
 だが、(実情を知らぬが故に申し上げるが)、奥村さんは自分に課せられた過酷な運命をも、過不足なく受け止め、不幸な境遇に悲嘆して終ってしまう事なく、病を持たぬ他人と己を比べず、最後まで「ゆとり」を捨てずに病と立ち向かわれた事だったろうと信じている。
 重ねて言うが、闘病生活の実情を私は知らない。故にこれは、私の勝手な思い込みでしかない。この駄文がご家族や関係者の方を怒らせたり、傷つけてしまうような事になるなら本当に謝る。
 しかし私は、奥村裕美子さんという人はそういう類の素晴らしい人だった、というふうに、いつまでも憶えておきたいのだ。

 安らかに。