2024年12月14日にYoutubeでのリリックヴィデオという形式でリリースされたTARJEELINGの5曲入りEP「Changes ep」。
作品全体および各トラックについてのコメントを掲載いたします。
・制作に至る経緯
2022年に物理メディアでの最終作品「F1 Blues」を発表してからしばらくした後、音楽制作システムを一新した。
使い方を習得する必要から、「五十の手習い」と銘打って過去作曲だけして音源化をしていなかった楽曲を中心にトラック制作を試みた。
当初は不慣れなせいもあってなかなか上手くいかなかったのだが、
特に今年の5月を最後に講演活動を終了してからは、リソースをこちらにだけ注ぐことが可能になった事もあり、徐々に上達していった。
出来上がったトラックから順番に今年7月に「東風」、10月に「箱舟は見つかったかい?」と1曲ずつYoutubeとSoundCloudにアップしていったが、
他に出来ているものを1曲ずつアップしていくのも手間だし、ここしばらくのうちに作ったものは共通のムードがあるように思えたので、
既発の2曲も含めて5曲入りリリックヴィデオ、という形式でリリースする事を決めた。
・作品全体について
タイトルを「Changes ep」としたのは、収録された曲のほとんどが「変化」について歌ったものであった事からによる。
ちなみに全くの偶然でそうなっている。前述の「共通のムード」とも関係あるかもしれない。
また1曲を除いていわゆる「お蔵入り」となっていた楽曲を選んで録音したが、曲の書かれた時期は数年前のものから四半世紀前の古物を改作したやつまでバラバラだ。
全体的には、少なくとも表面的には穏やかで内省的とも言えるトーンで統一されているようにも思うが、
実の所これは必ずしも意図的なものではない。
まず「五十の手習い」の初期段階という事で、比較的オーソドックスな構成の楽曲をピックアップしたという事情があった。
また今回は街のスタジオに頻繁に行ける状況ではなかった(それをやるには今年の夏はあまりにも酷暑すぎた)のと、
そもそも大声張って歌う気分ではなかったので歌入れをすべて自宅で行う事となり、
結果「小さい声で歌うのにふさわしい楽曲」を優先させたという事もある。
まあここ何作かのアルバムは色んなタイプの楽曲が目まぐるしく登場する、という感じになっていたので、
ここらでこういう作風のものもあっていいかもしれないと思っている。
・各曲について
1 置かれた場所で枯れました
以前にも書いた事だが、数年前Twitterで「置かれた場所で枯れましたって曲でも書いてやりたい気分だ」とツイートしたら「聴きたい」というリプライをいただいて、
それが元で誕生した曲。
楽曲自体は自転車に乗っている間に30分ほどで出来てしまったのだが、パート毎に全く異なるサウンドになる構成のため、アレンジには割とてこずった。
ただ苦労のかいあって、仕上がりには満足している。
2 東風
7月にシングルとしてYoutube、SoundCloudでリリースした曲。
元々は10数年前に原型を作っており、その時に音源化を試みたのだが上手くいかず、数年前に一部を改訂して現在の形となった。
歌詞の中に出てくる「あいつ」に関しては一部実在の人物から題材を取ってはいるものの、複数の人のエピソードを組み合わせたり創作の部分もあるので、モデルとして特定される人物はいない。
3 箱舟は見つかったかい?(Album Edit)
イスラエルのパレスティナに対する蛮行に抗議する主旨で、10月にシングルとしてYoutube、SoundCloudでリリースした曲。
今回収録したものはアウトロがフェイドアウトせず最後まで流れる。
昨年歌詞の原型のみを作った状態だったがどういう曲とアレンジにすべきかが分からず、結果的にジェノサイドが始まって1年近く経ってのリリースとなってしまった。
しかしあの蛮行はまだ続くどころか、パレスティナ以外に拡大すらしている。
CEASEFIRENOW.
4 変わってゆくのです
実質的なタイトルトラックとも言える曲。
10年近く前に作った曲で、その時は3拍子のフォーク調だった。
「Quiet Life」~「F1 Blues」制作時にフォークトロニカみたいなアレンジに変えて音源化を試みたがこれも頓挫してしまい、
今回再度ラテンがかったアレンジに直してやっと上手くいった。
「知らない国へ働きに~」のくだりは当初「知らない町へ~」だったのだが、
原曲を作った時は外国から働きにやって来る人たちが福岡でもよく見かけるようになった頃で、
「ああ、これはいずれ逆になるだろうな」と直感して「知らない国」に変えたという経緯がある。
我ながらいい判断だったと思う。
5 忘れられた世界
四半世紀ほど前(まだTARJEELINGではなく聡文三名義で活動していた頃)に一旦完成していた曲だったが、その時は音源化する事など何も考えていなかった。
それが今年の初め位に、何かの折にこの曲の事が思い出された時に、中間部のメロディもコードも歌詞も全く新しいものを思いついて、その場ですぐさま完成してしまった。
アレンジも最初のヴァージョンはギターの弾き語りだったがその時にピアノ1本のアレンジに変えた。といっても弾き語りでやっているわけではなく(弾けないので)、ピアノは打ち込んでいる。
ただ曲もアレンジもシンプルなだけに、逆にどのテイク、どのヴァージョンをOKとするかについては意外とてこずった。
・おわりに
本作のリリース日である12月14日は奇しくも私の誕生日にあたる。誕生日に音源をリリースするのは初めてだ。
今年1年は個人的にも、また世の中的にもロクな事がない1年だった。特に前者に関しては「さんざんだった」と言うべきものだった。
ちょうど誕生日が年の瀬という事もあって、この作品をリリースする事が「悪魔祓い」のようなものになればいいと思っているが、
更なる悪魔を呼び出す可能性も否定できない。
昨今はライヴやイヴェントの事を「(演者や参加者の)生存確認」と形容する人が増えた。
この作品についてもある種の「生存確認」と受け取る人もいれば、「死亡通知」として扱う人もいるだろうと思う。
どうでもいい事だ。
そういう人達は恐らく実際に作品を聴いてみる事すらせず、告知のツイートやSNS記事をチラ見してすぐ次のネタに移る位が関の山だろう。
そんな連中に関わるのは時間の無駄だ。残りの人生は短い。
私は今回ただ、良い楽曲と、ユニークな言葉と、ヒューマンな歌声を5つ並べて、ここに置いておくことにした。
そういうものに興味があるならば、聴いてみてくれ。