「怪傑アンパンマン」の思い出

 とっくに旧聞化しているが、「アンパンマン」の生みの親のやなせたかしさんが亡くなった。
 ご冥福をお祈りする。

 昔子供と関わる仕事をしていた時、アンパンマンの絵本やヴィデオ等には随分とお世話になった。
 当時も今も、特に幼い子供には絶大な人気を誇る作品ではある。
 しかし、当時子供達に見せてやりながら、その(一見)無邪気な雰囲気に少しだけ違和感を感じていたのも事実だった。

 というのも、私が子供の頃初めて出逢ったアンパンマンというのは、そういうものではなかったからだ。
 あれは一体何だったのか長年分からずにいたのだが、ネット時代になってからようやく真相を知るに至った。
 しばらく前まで各話のあらすじを詳しく載せたサイトが存在していたのだが残念ながら今は閉鎖されているようなので、ここでは簡単な解説が載ったブログを紹介しておこう↓。


 「初めて出逢った」と書いたものの、正直な所熱心な読者だったわけでも何でもなくて、というか有体に言えば小学校の低学年の頃、風邪引いて行った病院の待合で2~3話を読んだというだけに過ぎず、
 ついでに言えばいわゆる「アンパンマン的なるもの」はもう幼稚に感じてしまうような年頃だったので完全に暇つぶしに手に取ったに過ぎなかったのだが、
 にもかかわらず読んだ後感じた「何かとんでもないもの見ちゃった」的な強烈な印象が今でも脳裏に焼きついている。

 上記ブログをご覧になれば分かるように、いわゆる「子供向けの(一見)人畜無害なメルヘン」というものとは全くかけ離れた作品である。
 私が読んだ所に限って言っても、アンパンマンが空を飛んでたらどっかの国の国境警備隊に領空侵犯のかどで狙撃されて海に墜ちたとか(!)、本物のアンパンマンが行方不明になってる間にクロカワが仕掛けたにせアンパンマンが宣伝のために派手にメディアを賑わせたり(!)とか、めっちゃダークでアイロニカルなエピソードだったと記憶している。大体文体からして漢字が多くて一つも子供向けじゃなかったぞ。
 そうそう、筋には関係ないけど話の中でやなせ氏本人が当初の予定を大幅に超えて連載が伸びちゃった事を読者に弁解してる回もあったな。「このまま終わらせたくないんです。作者はアンパンマンが本当に好きなんです」とか言ってた、確か(笑)。

 最初の出逢いがそれだったもんだから、後年テレビシリーズの「アンパンマン」が人気が出た時「そのアンパンマン=あのアンパンマン」というのがどうにも納得できなくて困った。またその頃は(今よりももっと)世の中斜に構えて見ていたので、「俺が子供の頃読んだあのアンパンマンの方が絶対『本音』だよな、今の奴はガキ向けに甘口にしてるんだろう」と思ってたものだ。
 今はちょっと違う。今のアンパンマンが甘口にしてないとは言わないが(笑)、やなせさんが本当に書きたかったのはやっぱり、困ってる人、ひもじい人を自分の顔を食べさせて救うヒーローのシンプルな物語だったのだろうと思う。
 そういう単純なだけではいかない世の中の不条理さややこしさというのは勿論承知の上だったろうし(でなきゃあんな皮肉な話書けませんよね)、実際「アンパンマン」も最初はなかなか受け入れられなかったそうなんだけど、色々紆余曲折を経てようやっとそういうシンプルな話を素直に書ける域に到達されたのだろうなと、今は思うな。