まず最初に、声に捕まえられた。
確か、「サン・シティ」という反アパルトヘイトのチャリティソングだったと思う。
当時の「チャリティ・ソング」のご他聞にもれず、色んな歌手が1フレーズずつ歌うタイプの曲だったのだが(まあ音楽的には当時としてはカッコいい方だったけどね)、いわゆる「熱く」歌う感じの他の歌手に混じって、1箇所だけな~んか中年のオッサンがブツブツ言ってるような口調で歌ってる人がおって。
何かヘンな声の人がおるなと思いつつ、妙に気になって何度もエアチェックしたその曲を聴いた。
それがルー・リードだった。まだヴェルヴェッツの伝説もその後の偉大な業績も全然知らない頃。
その数年後再発の廉価盤でヴェルヴェッツの2ndを背伸びして買い、平気で17分くらいノイズにまみれた単調な曲が延々続くのにうなされたりしつつもやっぱりあの声というか、歌いまわしが耳にこびりついて離れなかった。
ほどなくして、復活作とも言える「NEW YORK」というアルバムがリリースされ、これは本当に良く聴いた。
それから、他のアルバムも(全部じゃないけど)色々聴いたし、「ルー・リードに影響を受けた」バンドも随分と知って「どれだけ影響の範囲広いんだ」とたまげたり、逆に彼が影響を公言しているいにしえのロックンロールや黒人音楽も聴いてみて「なるほど、ここいら辺が好きだったのね」と思ったりしたのだが、
結局、分からないのだ。最初になんであの声に魅かれたのか。
ああいう声や歌い方の人はどこにも居ないから、というのはあるだろう。黒人のトーキング・ブルースとかが元なのかなとも思うけど、ブルースの発声とかとはまた異なる感じだし、第一聴いてて受け取る感覚が全く違う。何というか、耳から音声が聴こえる感じがしない。聴覚以外の感覚、それも触覚とかそういう所に響く気がする。
でも、一般的な基準から言ったら決して「気持ちのいい」声じゃないし、あからさまに歌唱力をアピールするタイプでは間違ってもない。それのどこが、田舎の中学生でロックのロの字も知らんかったような奴にアピールしたのか。我ながら今もって謎だ。
一つ言える事がある。ビートルズ初期のジョン・レノンや宮本浩次などと並んで、私にとっての「ロックンロール音楽の歌唱というのはいかにあるべきか」というのをこの人が早々に決定してしまったという事、それと、自分があの人(ら)みたいな声じゃなかったのが未だに悔しくてしょうがない、という事だ。
安らかに。じゃなかった、あっちでも声とノイズをよろしく!