ライヴ観戦記:2012年6月26日 佐野元春 and the COYOTE BAND @ZEPP FUKUOKA

 昨日、ZEPP FUKUOKAにて行われた、佐野元春 and the COYOTE BANDの福岡公演を観に行った。
 随分久し振りである。前回観に行ったのがアルバム「THE SUN」発売時のツアーだったので、7~8年ぶりか。

 ボックスセットやDVDアンソロジーのリリースはあったが、純然たる新作がない状態でのツアーなので、開演前の雰囲気もそれほど高いテンションではない。まあ、気が付けばデビュー30年の大ベテランなので(でも何となくこの言い方は佐野元春には似つかわしくないよね、いい意味で)、客の年齢層も相応に高くなっており若いバンドのライヴのような熱気は望むべくもないのだけど。

 定刻より少し過ぎた頃にスタート。佐野抜きのメンバーによるインストゥルメンタルの後に「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」でスタート、その後「COYOTE」アルバムから何曲か続いたのだが、
 音が、かなり悪い。
 低音がやたらこもっていて音の分離がまるでなっていない上に、歌詞がほとんど聞き取れない。1階右側最後方という、あまり条件の良くない席にいた事もあるのだが、それにしてもあれはいただけなかった。
 佐野の声は、数年前の一番不調な頃よりは大分持ち直していた(その頃キーを下げて歌っていた曲も殆どは原曲のキーに戻っていた)のだが、その一番ダメな時に比べても声が聞き取れないというのでは、どうしようもない。
 「COYOTE」からの曲をライヴで聴くのを楽しみにしていただけに、これはかなりガッカリであった。

 6曲目(だったと思う)「欲望」をやった辺りから音は回復しだした。佐野は過去の曲のアレンジをしばしば大胆に変えるが、この曲は原曲にほぼ忠実な、重厚で迎えたアンサンブル。続いて、「VISITORS」。これも原曲に則ったアレンジなのだが、これが激クール!!!個人的にはこの2曲の「高いテンションが程よく抑制された演奏で表現された」様が今回のハイライト。その前が悪い音に相当イライラしていたので、反動で一気にアガった。

 以降、基本的には古い曲も最近の曲も、有名曲もマニアックな曲も、その時のリアリティに応じて自由にシャッフルし(1988年にリリースされた原子力政策にコメントした曲「警告どおり 計画どおり」を演奏するのがまたらしいと言うか)、時にはアレンジを変革して演奏するという、言ってみれば「いつもの佐野元春のライヴ」が展開されていったのだが、全体としてはやはり新作リリース時のツアーに見られるような緊張感とかチャレンジャブルな要素には乏しかったのは否めない。
 ただ、途中で現在レコーディング中だという新作からの曲を2曲もやってくれた。この2曲がとても良く(特に最初にやった、キーボードが効果的にフィーチャーされたポップソウル的な曲。非常にキャッチー!)、これは今回の最大の収穫だったかもしれない。

 しかし正直な所、まだまだこんなもんじゃねぇだろ、という気がしている。知性とエモーションを高いレヴェルで融合させるという意味では未だこの国最高峰のロックンローラーが2012年に叩きつける表現としては、この日のライヴは正直言ってまだ手ぬるい。恐らく決着は新作と、その後のツアーだ。そいつを今しばらく待つことにしよう。