映画「ギミー・デンジャー」を観てきた

 自分の音楽活動以外の事を久しぶりに書きます。
 少し前の話になりますが、ザ・ストゥージズドキュメンタリー映画「ギミー・デンジャー」を観てきました。
 今回はそのお話を。

「ギミー・デンジャー」公式サイト

予告動画


 この映画の監督はジム・ジャームッシュ
 ジャームッシュで音楽関係のドキュメンタリーと言えば、20年ほど前にニール・ヤング&クレイジー・ホースの取り上げた「イヤー・オブ・ザーホース」を観た事があります。

「イヤー・オブ・ザーホース」

 あの映画はバンドのツアーにジャームッシュが同行し、ライヴ終了後に(当時)初老の男同士がどこ間違えたの間違えないので人目もはばからず怒鳴り合いをしたり、撮影やインタヴューを行う監督に対しニール以外のメンバーがあからさまにウザがり「お前それ趣味で撮ってんのか」などと挑発したりという、「日常としてロックンロールを生きる者たち」の色んな意味での危険さを見事にとらえた作品でした。
 今回はそれこそ今ある「危険物としてのロック」の元祖みたいなバンドのドキュメンタリーなので、さぞかし…、と期待する向きもあるかと思いますが、私の見た感じではそういうものにはなっていなかったように思います。
 基本的にはメンバー、特にイギー・ポップの回想インタヴューを中心に当時や再結成後のライヴ動画その他が挿入されるという構成。
 しかも活動時期が短く、当時はほとんど売れない&パフォーマンスがヤバすぎる(笑)せいでメジャーなフェスなどには出演できず、結果映像関係の資料がかなり少なかったようで、ジャームッシュ監督は色んな所から相当動画をかき集めたそうです。
 それもあってか、映画に使われているライヴ映像の中には普通にYoutubeなどで観れるものも少なくない上に割と細切れのものが多いので、前述の「イヤー・~」のようなヒリヒリ感やカタルシスにはどうしても欠ける。
 なのでどちらかと言うとバンドの雄姿に熱狂するというよりは、謎の多いバンド、ストゥージズの秘密を読み解くというような態度で観ていました。

 ですが。
 その秘密というのが、結局の所よく分からなかったのですよ。
 いや、インタヴューや映画の質が悪いというわけではないのです。イギーや他のメンバー、更には元マネージャーやメンバーの妹(!)に至るまで、結成当時のいきさつや逸話について相当細かい所まで話していますし、バンドに対する思い入れなども的確にとらえているとは思います。
 ただ、色んな証言を集めても、いや集めれば集めるほど、「じゃあなんであんな事が出来てしまったの?」という最終的な解については、分かるどころか謎が深まってしまったよ、という思いが観ていくうちにどんどん深まっていくのです。
 一例を挙げますと、イギーが子供の頃好きで、後々ストゥージズを始めるにあたって影響源となったものについて語る所があります。
 その中で子供の頃よく見ていたテレビ番組でのピエロ役が大好きだったとか、ある番組で「25語以内でお便りを下さいね!」と呼びかける所から、歌詞を25語以内で書こうと思った等という事が明かされます。
 一瞬「なるほどそういう事か」と納得しかけるのですが、いくら道化的なトリックスターが好きだからと言って、全身にピーナッツバター塗ったりガラスで切って血まみれになったり客席に飛び込んだり(←今でこそ割と見かける光景ですが、1968年とかの時点でそんな無茶するロック歌手はいません:笑)するかフツー、と思うし、
 その25語以内で書く言葉がなんで「お前の犬になりたい」とかなんだよ、と考えていくと、結局の所「イギーがそういう奴だったからそうなった」としか言いようがないのです。
 それは他のメンバーについても同じで、再結成した時にイギー以外のメンバーは音楽からはほぼ足を洗った状態だったのですが、再結成時のライヴ動画とか見ると、イギー以外はほんとにただの中年か下手したら老人(笑)な容姿なのに、鳴らしている音のテンションが往時のままというのは、いくら技術的にそんなに難しい事やってない(失礼)とは言え、いったいどういう事なんだと。20年も30年もやってなかったら、いくら再結成した後必死に練習したって、普通色々劣化してるはずだろと。ただでさえ年食ってんだし。
 これもまた「そりゃストゥージズだからそうなっちゃうんじゃないの」位しか結論のつけようがない。結局の所、謎の解明にも何にもなっていない。

 ただね。
 結局ストゥージズが何故ストゥージズになったかの秘密なんかちっとも分からなかったけど、私はこの映画をとても好ましく思いました。
 ジャームッシュ監督のバンドに対する愛に溢れたオネストな態度、分かった所についてはきちんと明らかにするが、分からない所に関してはヘンな解釈やでっち上げを微塵も許さない、そうした潔い作り方をしているが故の「分からなさ」であると感じたからです。
 また、分からないという事は、逆に言えばその事についてずっと考え続ける、という事でもあります。
 どこまで言っても解明できない謎を孕み続けるようなバンドだからこそ、我々は魅かれ続け、(分からない部分もロクでもない所をも含めて)丸ごと愛する事が出来るのかもしれません。

 そう言えば本作のコピーは(日本だけかも知れませんが)、「鬼才ジム・ジャームッシュから、史上最高のロックンロール・バンド”ザ・ストゥージズ”へのラヴレター」とありました。
 分からないから魅かれ、分からないから分かりたいと思う。
 それって確かに、恋愛そのものですよね。