MORRISSEYはとんでもないものを盗んでいきました。みんなの心です。

 え?何故「カリオストロ」のラストを引用したかって?アンコールでやった「FIRST OF GANG TO DIE」の歌詞に似たようなフレーズを見つけたからなんですけどね。

 引用するとこんな感じです。

 AND HE STOLE FROM THE RICH AND THE POOR
 AND THE NOT-VERY-RICH AND THE VERY POOR
 AND HE STOLE ALL HEARTS AWAY

 というわけで、行ってきました20年ぶりのMORRISSEY福岡公演@ZEPP FUKUOKA
 まず驚いたのが、会場で会った知り合いの多さ(笑)。if MASAKAイクマさん、百蚊五嶋さんはじめ、福岡インディー音楽界からの来訪者が多い。
 いわゆる「チケットがプレイガイドで発売されるような来日アーティスト」で今まで行った中では過去最高に知り合い率高かったのではないか(JOHNATHAN RICHMANの時も多かったが)。
 開演前にはステージ前に張られた幕に、MORRISSEYがいかにも好きそうな映像(NEW YORK DOLLS 、SPARKS、NICO等のTV映像とか)が流れていた。いよいよ始まるとなった時に、その映像を使ったなかなか粋な演出があったのだが、ま、それは説明しづらいので割愛。観た人だけのお楽しみという事で。
 で、いよいよ御大とバンドの登場。20年前はセキュリティをつけなった(!)関係もあって、ほとんど登場と同時に会場中の客が椅子を乗り越えて最前列に殺到してえらい事になってた記憶があるが、今回はさすがにその辺は普通。最初にバンドメンバーと肩を組んで一斉にお辞儀をするとこから始まったんだけど、普通のライヴでは見慣れた光景でもあのMORRISSEYがやると妙におかしい。
 1曲目、「I WANT THE ONE THAT I CAN'T HAVE」って、えーーー!!!いきなりTHE SMITHS時代の曲!!しかも「MEAT IS MURDER」アルバムの中でも1番好きな曲!!思わず「やったぁぁあああ!!!」と叫んでしまう(笑)。勿論周囲も狂喜乱舞。グラジオラスの花束があちこちで舞っています(註:THE SMITHS時代から一貫して、彼のライヴではグラジオラスの花束をお客が持ち込んで御大に差し上げたりする光景が通例となっているのです)。
 その後、基本的には「2004年の復活以降の楽曲」+「THE SMITHS時代の曲」+「以前のソロキャリアからの曲」をバランス良く取り込んだ選曲、それに時折見せる何とも形容のしようのないユーモア炸裂のMC(分かりやすい一例:「どこへ行っても皆僕を愛してくれるね。で、何で僕なの?」ってそれを客に聞くか:笑)でぐいぐい引っ張っていく。
 もともとそういうヘンな面白さはあった人だと思うけど、20年前は(ってすみませんね昔を懐かしむ年寄りの繰言みたいで)少なくとも私はその面白さというのは実は良く分かってなった気がする。どこか怖いもの見たさみたいな感覚で見てたというか。今は普通に面白い、楽しい。
 色々変わったんでしょうね、私も状況も。

 そういう、基本的にはとても愛と楽しさとユーモアに溢れたライヴだったのだけど、1箇所だけ非常に異質な局面があった。
 そう、「MEAT IS MURDER」をやった時の事。
 この曲の歌詞は厳格なヴェジタリアンであるMORRISSEYが肉食への反対を訴えるものだが、その曲を演奏する際、なんとバックに食肉加工の記録映像を延々流したのである。
 さすがに実際に殺す映像とかは流れなかったが、鶏のくちばし切ったり、牛の脚にロープつけて逆さ吊りして運ぶくらいのは流してました。
 だが普通に考えたら、いくら主張したい事があるとはいえエンタテインメントとしての許容範囲を超えた演出とも言えるし、実際お客の反応も、今までの熱狂が若干そこで引いてしまった感は否めない。
 ただ、私は、何だか嬉しくなってしまった。
 だって、MORRISSEYというのがそういう奴だったからこそ―菜食主義でも王室反対でも、自分が心から正しいと思った事はどんなにマイナーで、下手すると自分以外誰も賛同してくれなさそうな主張でも敢然と掲げるような奴だったからこそ―彼の音楽や言葉に耳を傾けてきたのではなかったか、と思ったから。
 それだけが理由ではないかもしれないけど、少なくとも私にとってはそれは大事な理由の一つである。それはMORRISSEYに限らず。
 そういう意味では彼はちっとも変わっていなかった。それが嬉しかったのだ。

 御大の歌は、20年前よりも全然良くなっているのではという印象を受けた。
 これは大したものだと思う。彼は50歳を少し過ぎた頃だと思うが、通常のロックミュージシャンの場合その齢だと若い頃の無茶がたたってガタガタだからね。
 まあこの人は菜食主義のみならず、ドラッグとかにも手を出さないらしいので、そういうスタイルが幸いしたのかもしれない。

 というわけで、演奏の出来もよく、選曲もバッチリ(ただ後日東京公演のセットリスト見たら「STILL ILL」をアンコールでやってて「ええぇ~~!!??」と思ったけど)、客の心もすっかり盗まれという、全く申し分のないライヴだった。
 ただ、さっきも書いたけど、ホント20年前は、MORRISSEYのライヴをこんなにはしゃいで楽しむ事ができるようになるなんて思わなかったなあ。
 大体20年前は、MORRISSEYが20年後に音楽活動を続けてる事自体はなはだ怪しいもんだったからな。あの頃の御大ときたら、すぐ雲隠れするし、プロデューサーやスタッフとは仲違いしてばっかだし、お騒がせ発言は連発するし(これは今もか:笑)、何とも危なっかしくてめんどくさいキャラだったから。
 そして、そういう部分は何もMORRISSEYだけじゃなくて、誰しも大なり小なり抱えているものだったりして、そういう事を分からせてくれたのがMORRISSEYだったり、THE SMITHSだったりしたのだと思うのですよ。
 終演後、上気した顔で会場から出て来るお客の顔を見て、生き残ったんだな、という気がした。MORRISSEYも、お客も、私も。そういう危なっかしくてめんどくさくて、実社会では一つの役にも立たないどころかソッコー削除されかねないものを抱えたまんまで、何とか。
 だからあの日のライヴは、「みんな、よく生き残った!共にその事を祝おう!!」という事だったんじゃないかなあと、私は勝手に思っているのです。