Virtual Interview with SOH BUNZOH about TARJEELING's Brand New Album "F1 Blues"(最終回)

2022年5月3日に発売されたTARJEELINGの新しいアルバム、「F1 Blues」。
一部ではキャリア最高傑作との声もある本作について語り尽くす連載企画、
「Virtual Interview with SOH BUNZOH about TARJEELING's Brand New Album "F1 Blues"」、
いよいよ今回で最終回を迎える事となりました。
アルバムのキャッチコピー「さらば、あだ花の国。さらば、聡文三。」の真意について、そして今後について語っています。
どうぞお楽しみください。

前回の内容はこちら↓

tagahillrecords.hatenablog.com

TARJEELING 2022年ニューアルバム「F1 Blues」特集↓

tagahillrecords.hatenablog.com

全ての収録曲の解説を終え、この長きにわたるVirtual Interviewもそろそろ終わりを迎える時が来た。あらかた聞くべきことは聞いてしまったような気がするが、それでももう一つだけ重要な質問が残っている…つまり、このアルバムは音盤としてのリリースは最後となるというアナウンスがされているが、なぜその決断をしたかという事だ。更には、アルバムの宣伝フライヤーに掲載されているキャッチフレーズは意味深だ―「さらば、あだ花の国。さらば、聡文三。」。「あだ花の国」というのはまあ日本の事で間違いがなかろうが、「さらば、聡文三。」というのは単にアルバムが最終作だという事のみの意味なのだろうか?それとも…。
「まず最初の質問に関して言えば、どちらかと言うと実際的な理由が大きいという事です」答えるのに時間がかかるかと思いきや、意外にもそう間を置かずに聡は話し始めた。まるで聞かれる事をあらかじめ想定していて、準備していたかのような口ぶりだった。「もちろん、今CDというか物理的なメディアに音楽をパッケージしてそれを売る、という行為がそろそろ終わりつつある―まあ日本はそれでもCDまだ結構売れる方らしいですけど。喜んでいいのかどうかわからないですけどね―事は頭にあります。ただ直接の理由はそこではないんです。『Daily Colony News』(2015年発表の4作目)から『F1 Blues』にかけて音源製作に使用していたPCや機材のいくつかがそろそろ限界に来ていて、また今の制作体制で可能な事を今回でやり切った感じがあって。今後音源製作を続けていくのならば、機材もやり方もアップグレードが必要とされる。ただ…、今から次の体制に移行して、製作が可能になるまで持って行くには時間がかかります。従来のアルバムのような形で例えば10曲くらいの音源を作り上げられる状態になるまで、何年かかるか分からない。恐らくその頃にはCDなどリリースしても今以上に何の意味もなくなっているだろう(笑)。そういう判断なんです」
という事は、例えばデータやストリーミングで音源を発表・発売する事は今後も変わらないと?
「勿論音源を制作するのは今後も可能な限り続けていきたい。私は講演オンリーに活動を限定するつもりはないんです。そもそも弾き語り以外の形式で講演をやるのであれば、それにも(バックに使う)音源が必要になりますしね。ただねえ…特に『Daily~』以降あるコンセプトに則ったアルバムという形で3作続けてきましたけど、もうそろそろそういう形に捕らわれないやり方もやってみたい。曲ができた順にランダムに発表するとか、ある曲をヴァージョン違いで同時に出すとか、そういう事も」
という事は、今回のキャッチコピーにあった「さらば、聡文三。」というのは別に音楽活動自体をやめるとか、そういう話ではないんですね?
「まあでも、どう考えても残された時間は少ないんですよ。正直あのフレーズは半分冗談だったのも事実ですが―『さらば、ジャック・スパロウ』(註:映画「パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト」の日本公開時のキャッチコピー。本作では主人公のスパロウがクラーケンに飲み込まれる結末となったが、結局後に続編が制作された)のもじりみたいな(笑)。でも盤でのリリースが終了する事でそれっきりになる人もいるでしょうし、さっき言ったように新しい製作体制の確立自体に時間がかかりますから、音源製作を再開したとしていつまで可能かは分かりませんからね。ここらで前もって、最後の挨拶を言っておくのも悪くはないかな、と思いまして」
念のための確認ですが「さらば、あだ花の国。」については、日本についての言及という事でいいのでしょうか?そう質問するや、聡は意外な反応を示した―あからさまに目をそらして顔をゆがめ、軽く舌打ちすらしたのだ。
「なんて質問だ…馬鹿げているにもほどがある!日本があだ花の国だって?こんな素晴らしい国はないと思っているのに…。一体どうやったらそんな誤解が出来るんだ?」ここで聡は表情を一変させ、ニヤリと笑う。目がウソだよと言っている。「はい、そう受け取っていただいてもかまいません。ただね…単に日本についての批判という事だけという風には受け取ってほしくはないんです。このインタヴューの最初の所で自分が若い頃影響を受けた存在が何人も反ワクチンや陰謀論に堕していった、みたいな話をしましたけれども↓、

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こういう事を見る度にこの国やひいては今の世界の文化や政治や思想のどこか根本にあだ花のような脆弱さがあるのかも知れないとは思います。そして自分たちもそれらにいろんな形で影響を受けたり加担したりしてきた、という忸怩たる思いというものはやはりありますよ。だから今は、そうしたものに一旦は決別する時期だろうと思っています。…今話しながら思ったのですが、『さらば、聡文三。』を付け加えたのも、自らのそういうあだ花性に影響を受けた側面への決別が必要だと無意識に感じていたのかもしれないですね。うん、そういう事にしておこう(笑)」
私もそれを聞きながら今思いついた質問をしよう。そういう考えというのは、聡が主に活動している福岡のインディペンデント音楽シーンではどれくらい共有されているのだろうか?
「共有は、まったくと言っていいほどされていないんじゃないですかね」そう語って聡はやや寂しげに微笑した。「いやそもそもこっちもそうした話を別に日頃声高にしてるわけでもないのですけど、個人的に交流があったり、音楽自体が好きかどうかは別にして、同じような意識をもって音楽の事を考えているミュージシャン・バンドマンは、少なくとも周囲にはいないように思えます。COVID-19はひょっとしたら311以上にこの国や世界の歪みを我々の前に暴露してしまったのかもしれないですけど、別に音楽やってる人に限らずほとんどの人は、この状況が終わって単純に『元に戻ればいい』と考えている。一方五味太郎さんみたいな人が、じゃあコロナ前が良かったのかというとそういうわけでもないだろう、みたいな事を言ってるのを読んだりすると、やっぱり―五味さんの意見にすべて賛同しているわけではないけど―そういう認識の方が信頼できる気がします。ただ、私の考えている事と福岡地下音楽の関係者諸氏の現状認識が全く乖離している事はもう今に始まった事じゃないし(笑)、と言うかもう私がこういう事を始めた時からずっとそうだとも言えるし。その辺はもうあまり気にしていません」
ではこの長大なインタヴューのしめくくりをこの質問で。この「F1 Blues」を、聞き手にどういう風に受け止めてほしいのだろうか?
「特に何も考えていません(笑)。今作は盤で最後のアルバムと決めたから特にそう思うのかもしれませんけど、『(作品を)ここに置いときますから何か思う所があったら手に取ってみてください』くらいの感じなんです。だから、COVID状況を鑑みてという事もありますけど、本作については発売記念講演とか、そういう事をする予定はありません(註:実際このVirtual Interview収録後の2022年5月に本作が発売されてから2023年現在の時点で行われていない)。通常と変わらぬ講演活動をするだけです。まあ差し当たっては、かかった実費を回収する程度に売れればよいだろうと思っております(笑)。」
(終わり)
※約1年間にわたり連載した「Virtual Interview with SOH BUNZOH about TARJEELING's Brand New Album "F1 Blues"」をお読みいただいた皆様、誠にありがとうございました。
あと1回だけ、「あとがき」として、この作品を作るにあたって影響を受けた「参考文献」のリストを掲載する予定です。


聡文三音楽活動30周年記念作品、
TARJEELING 6th Album 「F1 Blues」(品番:THCD-010)、
2022年5月3日発売!!!
全14トラック、2000円(税抜)。
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Mail tagahillrecords@yahoo.co.jp
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取扱店舗(2022年12月現在)
Blowin'
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