映画「犬に名前をつける日」を観ての感想

 東日本大震災のあった年から、被災動物を救う活動をしている団体に義援金を送っている。
 貧乏人の身ゆえ、毎月ごくわずかな額を送っているだけだし、いわゆる「救援活動」を行っているわけでもないのであんまり大っぴらにするのも恥ずかしいのだけど。
 その団体「犬猫みなしご救援隊」http://www.minashigo.jp/を含む、動物を救う活動をしている団体を取り上げた映画が公開されると聞き、観に行った。

 犬に名前をつける日 公式サイト http://www.inu-namae.com/

 実はこの映画、楽しみにしていたのだが、観る前は不安も少なからずあった。
 というのは、完全なドキュメンタリーの手法を取っておらず、一部フィクションを使うセミドキュメンタリー的な手法を使っていると聞いていたからだ。
 物語は、小林聡美演じる主人公のTVディレクターが、愛犬を亡くすという所から始まる。愛犬のためにしてやれなかったことを悔やみ、犬のために何か出来る事をと考え、先輩の映画監督の助言で犬の置かれた状況についてのドキュメンタリー映画を撮ろうと思い立つ。その取材先が先にあげた「犬猫みなしご救援隊」他、実際に活動している動物保護団体などというわけだ。

 ドキュメンタリー部分と再現ドラマフィクション部分を混ぜ合わせるという手法は、主にTV番組などでままある。そして、大抵の場合あまり成功しているとは言えない。
 ドキュメンタリー部分ではそれなりにリアリティや迫力のある場面が観られても、再現部分になるとどうにも薄っぺらさや嘘くささが散見され、中途半端な仕上がりになってしまうのがほとんどだ。
 この映画もそういう事になっていたら目も当てられねえなと思っていたのだが、思ったほどの違和感はなかった(全然なかったわけではないが)。
 これはドラマ部分を完全にドキュメンタリーと分離させず、主人公が(話の展開上)取材をするという名目で実際の保護施設や活動の現場に出向き、活動団体の方や動物たちと行動を共にしたというアイディアの妙に負うところが大きい(小林聡美が上手いというのもあるんだけど)。

 何もそんな事をせずとも、完全なるドキュメンタリーにすればいいではないか、と思う方もいるかもしれない。
 その気持ちは分からないでもないし、実際本作がその方式を取っていても私は観に行っただろうとは思う。
 ただ、私はペット問題についてのドキュメンタリー番組を割と見ているから特に思うが、この手の作品というのは、真面目にやったらかなり「重く」なってしまう。
 そりゃあそうだ。保護団体の活動はと言うと、行政が運営している保護センターに行って殺処分前の動物を引き取ったり、悪質なブリーダーが放棄した犬たちを救ったりとかなのだ。当然、かなり悲惨な状況の犬猫の姿を見ることになる。おまけに今回は震災の際に原発の半径20キロ範囲に入って(文字通り)決死の救助活動をしていた姿まで収められている。いずれも大変意義のある映像だが、全編この姿を流すのみの方式だと、かなり観る人を選んでしまう作品になってしまったはずだ。
 なので、今回この手法を採用した事に関しては、リアリティも損なわず、重さもそこそこ中和できるという意味で、私は積極的に肯定したい。いや、こういう映画はできるだけ多くの人に観てもらわないと意味がないからね。

 とは言え、やはり観るべき所は保護活動家の皆さんが実際に活動をしているその現場の映像である。
 先に述べたように、場面によってはかなりへヴィに感じてしまう映像もある。しかし、全体を通しては、動物たちの置かれた状況の悲惨さに気が重くなるというよりは、動物を救う現場の最前線で活動している人たちへの驚きと敬意をより多く感じた。
 「犬猫みなしご救援隊」にせよ、もう一つメインに取り上げられている「ちばわん」http://chibawan.net/にせよ、いくら動物を愛しているからといってここまで出来る人たちというのはそういるものではないし、またそうある必要もないと思うが(というか何より私自身がこんな事出来ねぇよと強く思うのですが)、こういう人達が私たちの知らぬ所で力を尽くしている、という事実は、たとえ何もしなくても「猫者」(私の造語です。心の中に猫が刺青されているように彫られているような人間の事を指します)としては頭の片隅に留めておきたいものだと思う。
 というわけで私は、(変な言い方ですが)「ああこの人たちに金送って本当に良かったな」としみじみ思って劇場を後にしたのでした。