勝手にしやがるディープサウス

 過日。私はディープサウスへと自転車を走らせていた。
 ここで言うディープサウスとは、福岡市南区の奥地という事である(笑)。
 
 行った事のある人はお分かりだと思うが、ディープサウスは元々ギャラリーとか、クラブとか、カフェとか、そういう「何となく文化が発信されてそうな施設」は殆ど無い土地柄である。
 非常に入り組んだ狭い路地の両端に並ぶ古くからの住宅、それらを再開発でぶっ壊した後に出来た団地、駅周辺の倉庫と場末感漂う商店街、ほぼそういったもので構成されているといってもいいだろう。
 しかし最近は少しずつそれも変わりつつある、という事も風の噂に聞いている。
 そういえば私はディープサウスの住人ではないが、それでも例えば職場の近所を昼休みにうろついたりすると、煮しめたような路地に昔からあるボロアパートや総菜屋なんかと並んで、本当にこじんまりとしたカフェや無添加のパン屋(エコ系のイヴェントのフライヤーとか置いてるような奴)なんかをちょくちょく見かけるようになった。
 はっきり言って、周りの風景からは完全に浮き上がっている(笑)のだが、それはそれで面白かったりする。
 こういうロケーションにそういう店があるのは、賃貸料が安いのも大きいのだろう。でも、「周りがどうだろうと、私勝手にここでやりたい事を始めさせて頂きますから。例えどんなに小規模でも、気にせずにやりますから」みたいな「勝手にしやがる」オーラがあって、私はそういうの結構好きだ。
 客が来てないわけじゃなさそうだしね。その店がよければ、浮いてようが都心から離れてようが来る人は来るって事だろう。良くなかったら、そりゃあダメだけど(笑)。
 
 そうそう、ディープサウスの話。
 今回足を伸ばしたのも、そうした「勝手にしやがってる人達」の動向を見たかったからなのだが、
 ものの見事に迷った(笑)。何せ独特の入り組んだ界隈なので、道1本間違えたらとんでもない見当はずれの場所に着いてしまうのだ。おまけに行き止まりは多い、道は暗い(店が余りないせいですね)、似たような家が沢山並んでいる。いやはや大変でした。
 
 ただ、迷ってまで行った甲斐はあった。
 色々と面白いエピソードを聞けたのだが、一つだけ紹介しておきましょう。
 私が今回出向いた場所の近くに大学の寮があるそうなのだが、そこの寮生で割とクリエイティヴな人が主催して近所の森みたいな所で寮祭を開いたそうだ。
 当初は勿論学生だけで盛り上がってたのだが、森にしつらえたカフェやバンドの演奏に釣られて(?)地域住民の方たちもどんどんやってきてしまい、
 しまいには「この地区の将来について」なんて話題で寮生や地域に60年も暮らしている(!)ご老人、地元の高校生まで交えてディスカッションまで始まってしまったらしい。
 う~んいい話。自分たちだけで勝手に盛り上がってたら勝手に他所の人がやって来て勝手に議論が始まった、といういわば「勝手の連鎖」。日本社会はすぐ内輪だけで閉じたがるからこういうダイナミズムが生まれにくいと思うんだけど、ある所にはあるんだぜ、ちゃんと。
 
 年寄りたちは何かと、今の若者は気合いが足りないだの新しい事を始めないだのと不真面目な説教をやりたがる。
 でも、こういう動きを見ていると、何だ結局本当にやる気があって新しい事を始めてる若者の姿が年寄りに見えてないだけなんじゃないかという気がしてならない。
 何で見えてないかというと単純な話で、そういう若者はその手の年寄りの近くになんか寄り付かないからである。そんなくだらない連中とつるんでるヒマがあったら、自分の事を追求している方がいいのだ。そしてかつてはクリエイティヴで情熱的な若者であったかもしれないが今はすっかり堕落してしまってしかもその自覚がない年寄りは、優れた若者が寄り付かない事を(自分のくだらなさを棚に上げて)苛立ち、今の自分とそっくりな周囲のダメな若者に対し不毛な説教をかますのである。
 ほっときましょうそんな人達。みんな勝手にやりましょう。世代間の交流とか、シーンへの貢献とか、そういう下司な話はとりあえず脇に置いといて、まずは勝手に。そうすりゃ知らないうちにそういった事は後から付いてくるさ。