久し振りに映画館での映画鑑賞。
構成としては非常にオーソドックスで、生前の映像や音源、または家族や友人等のインタヴューを中心に、ジョージの足跡を追っていくというもの。
既にいくつか出ている映画評によると、ビートルズデビュー前のライヴのカラー映像(!)を含め、マニアなファンでも観た事のないようなものが結構使われているらしい。
そのへんの事は、正直言って私にはよく分からない。
私が興味を引かれたのは、やはり稀代の音楽映画巧者であるスコセッシがジョージをどう捉えたか、という所にある。
言うまでもなくジョージ・ハリスンはビートルズの元メンバーであり、バンド時代にもソロでも優れた楽曲を多く残しており、独特のスライドギター奏法の確立やシタール、シンセサイザーといった楽器のいち早いポップ音楽への導入など、その音楽的功績だけでも1本の映画を作れそうなほどの人物である。
しかしこの映画では、その音楽性についての言及はそれ程大きな比重を占めない。
代わりに頻出するのが、インド哲学や瞑想への傾倒といった、いわゆる「精神世界の探求者」とでもいった側面を語るエピソードである。
ポップスター(しかも半端ない規模としての!)としてのプレッシャーや、成功を手にしてもなお満たされない気持ちがそこに向かわせたのだが、様々な影響を受けつつも、バンドとしてはドップリハマるというよりは、あくまで一つの「通過点」という感じで最終的には落ち着いた感がある。
そんな中、ジョージだけはビートルズ解散後も、様々な形でその世界への関わりを続けて行くことになる。シタールの師匠だったラヴィ・シャンカールとは自分がシタールを弾かなくなった後も交流を続け、70年代には大規模なジョイントツアーまで行っている。勿論シャンカールつながりで企画・実現したバングラディシュ救済コンサートもあるし、他にもクリシュナ神を讃えるマントラのレコードをプロデュースし、あまつさえシングルヒットまでさせてしまったのだからすごい(当時はマンUのハーフタイムでもマントラの大合唱が起こったのだとか)。
勿論「マイ・スウィート・ロード」を始め、多くの歌詞で信仰についての言及がなされているし、生前のインタヴューから専用ジェット機に描かれたサンスクリット語のマーク(笑)まで、ジョージが「本気」だった事を示す証拠は枚挙に暇がない。
正直言って、ファン以外にこのエピソードだけを語ったら引く人もかなりいるだろうと思う。ジョージって元祖スピリチュアル系だったの?みたいな。
まあその見方も、当たってなくもないと思う(笑)。
ただ、そうだからという理由だけで彼の音楽を貶めたり、反対にむやみに称揚したりするというのは、やはり間違っている。
肝心な事はその音楽そのものに何が感じられるか、だろう。
熱心なファンじゃない私にとっては、ほぼ全キャリアを通す形で(でもないかな、所々あまり触れられていない時代もあるし)いちどきに彼の曲を聴く機会はなかったので、かなり新鮮な体験だったのだが、
改めて感じるのは、彼の音楽に満ちているヴァイヴの穏やかさだ。
この映画に特にそういう曲が多く使われているというのもあるが、アップテンポのナンバーや、リフ主体のロックな曲でもどこかナイス&ジェントルな風情が漂う。
あれこれ口やかましく指図するポールにキレて作ったという「ワー・ワー」ですら、怒りに任せてぶちまける、といった風情は微塵もない。同じポールの悪口を言ってる(笑)ジョンの「ハウ・ドゥ・ユー・スリープ?」と較べてみるとその違いは明らかだ。
で、その音楽を背景に、万物を慈しみ、精神的なものを尊重すべしといったジョージの哲学が語られると、実にしっくり来るのだ。ああ、本当にこの人はそういう事を信じているんだな、という感じで、素直に納得できるのだ。
もともとこういった穏やかさは資質としてジョージは持っていたのだろうが、やはりインド哲学に出会うことによって、その資質が人間的な意味でも音楽的な意味でも開花していった所はあるのだろう。
ジョンやポールと違い、ジョージは最初から天才の名をほしいままにしていたわけじゃない。色んな意味で強すぎる二人の陰に隠れて、徐々に才能を磨いていった感が強い。
その坂をゆっくり上るような(といってもあの二人に較べれば、だけどね)音楽的な成長過程の中、ちょうどいいタイミングで自分の資質に合いそうな教えに出会い、人間的な成長と音楽的向上がジャストに近いシンクロ具合で(二人三脚のように)進んで行ったのではないだろうか。だからヒッピー的な東洋指向が一時のブームとして去った後も、転向も思想と音楽とのズレも起こす事なく、心の旅を続ける事ができたのだろう。
そういう意味では、ジョンやポールよりもバランスの取れた音楽人生だったのかもしれない。
最初にも書いたが、この映画はかなりの長編である。おまけに入場料も通常より若干高く(2500円)、内容も上記のような感じである。
なので、全ての音楽ファン必見!というわけには、やはりいかないだろう。
だけど、音楽というものにただの娯楽や憂さ晴らし以上のものを期待し、人を色んな意味で高めてくれる可能性を信じている人には、是非観て欲しい映画である。
これは、あなたのような人にとっての偉大な先達が、音楽を灯火として「現実世界(マテリアル・ワールド)」の荒波を渡った、貴重な記録である。
とまあ、めんどくさい話はここまで。
こっから先は色々個人的に面白かった突っ込み所を思いつくまま書いてみます。
○そんな中、例外的に若い頃より今の方が見栄えがいいのはエリック・クラプトンなのだが、逆にその事が嫌味に見えるのは個人的な好みのせいなんですかね。
○若い頃のパティ・ボイド(ジョージの先妻)はアホ程かわいい。それこそネ申レベル(笑)。一方後妻のバーバラもかなりの美人なのだが、この人は今の方がいい感じの気がするなあ。
○いつも思うが、息子のダニーはおとんに似すぎである。初期ビートルズのコスプレさせて当時の映像とCG合成したら、マジで気付かれないのではないか。
○(恐らくサイケ時代に)ジョン・レノンが眼鏡を何重にもかけて自殺の名所みたいな崖っぷちに腹ばいになってるという、おっそろしい映像があった。あそこで「わっ!」とか言って背中を叩く奴とかは…いなかったんだろうな、やっぱり。
○TVつながりだと、今でいう「そこまで言って委員会」みたいな番組で若者の信仰心へのポップスターの悪影響、みたいな事を大人が難じてて、そいつらの言ってる事と佇まいがまるっきり三宅某や勝谷某みたいで笑う。昔っからああいう手合いっているのね。
○本文にも書いたが、70年代のラヴィ・シャンカールとのツアー映像。酷評されたそうだけど、そうなの!?全然いい演奏だと思うんだけど。やっぱあれかな、もう70年代中盤だったので「今更インド人とツアーかい!」みたいな反応だったのかなあ。